「いざ」という時実践できる?子ども自らが命を守る力をつける「体験型」安全教育が必要な理由

子どもを狙った事件があることを耳にすることはあっても、被害にあわないようにするためにはどのように行動したらよいのか、また被害にあいそうになったときどうしたらよいのか……それに対してきちんと伝えられる大人は少ないのではないでしょうか。
犯罪や災害からどうやって命を守るかを日々研究し、その方法について体験型の教室を開催し、子どもたちに分かりやすく伝えていく活動をしているのが「NPO法人体験型安全教育支援機構」です。
機構の活動メンバーになって3年目、現在理事を務めていらっしゃる八手さんにお話を伺いました。

長年研究された「犯罪者の目線」が防犯への道しるべ

ーーどのように活動がはじまったのでしょうか?

八手さん:当機構の体験型安全教育の土台には、私の恩師である清永賢二(元日本女子大学教授)の長年にわたる非行少年や犯罪者の行動の研究があります。

なぜその地域を、なぜその時間を、なぜその子どもを、なぜその方法で狙ったのか、ということを犯罪者目線で分析していくと、自ずとどうすれば安全な地域になり、どうすれば子どもが被害者にも、そして加害者にもならずに済むのかが見えてきました。

また、防災についても、大地震の「そのとき」を分析していくと、避難をする前の段階で「生き残る」ための行動がとても大切であるということがわかりました。

一方で、事件・災害の現場や子どもたちへの調査から、「子どもたちは防犯や防災に関する知識は持っているが、いざというときに実践できていない」ということも明らかになりました。

このようなことから、科学的根拠を持った理論に基づいて、体験的に安全教育をおこなうことが必須であると考え、2003年に活動開始、2012年にNPO法人になりました。

ーー清永氏が長年研究されてきたことをもとにされているのですね。

八手さん:そうです、清永の研究歴は40年以上に及びます。
科学警察研究所防犯少年部環境研究室、同室長、同犯罪予防研究室室長として、被害者の目線で物事を見るだけではなく、「犯罪者のことは犯罪者に聞け」と犯罪者の目線を徹底的に研究しました。

子どもを「被害者」にも「加害者」にもさせたくない

ーー八手さんはどういった経緯でこちらでお仕事をされているのでしょうか?

八手さん:私は学生時代、日本女子大学で教授をしていた清永のもとで安全教育を学んでおりました。
卒業後、学校の教員として働いていたのですが、何度かその学校の生徒によるいわゆるJKビジネスや万引きといった事案が発覚しました。
いつも授業で関わっていた生徒たちが、被害者にも加害者にもなってしまい、教員というより、子どもに関わる一人の大人として、何かできなかったのだろうかと考える日が続きました。

彼女らとのかかわりを振り返ると、よその家に泊まってしばらく帰らなくても叱られない(叱ってもらえない)、補導さえされなければ何をしてもよいなど、家庭での子どもに対する指導が「人に迷惑をかけなければ、なんでもよい」という基準をもとにされているように感じました。
確かに自由ではあったかもしれませんが、結果的にトラブルを起こす子どもを私は目にしましたし、非行に及ぶ子ども、また、だまされやすいといった子どもたちは、どこか「さみしさ」を抱えているように思いました。

ーー家族の温かさを感じることができない、家庭でのルールもない、そういう子どもたちがいたんですね。

八手さん:はい。ただ、それは決して見えやすいものではなく、それだけが非行の原因というわけでもありません。

誰しもが「一線」をこえてしまう可能性はある。タガが外れて犯罪に巻き込まれそうになったとき、どうしたらギリギリのところで踏みとどまれるようになれるのか、ということに関心を持ちました。

そこで、私は、家庭環境はさておき、せっかく出会えた生徒たちに学校でできることをしようと考え、代表理事の清永奈穂をはじめとする安全教育を実践していた当時のメンバーを講師として学校に呼び、犯罪からの安全のプログラムを子どもたちに指導してもらいました。

自分で自身の身を守れる力をつけてほしい。
犯罪や地震に限らず、危機に直面した時も自分で判断・行動できるようになってほしい。
それだけでなく、目の前で困っている人に手を差し伸べることができるような人になってほしい。
そして、ゆくゆくは安全な社会を築く大人になってほしい。

当機構のプログラムの教育目標は、私が日々関わっていた生徒たちへの願いそのものでした。

教員としての3年間、様々な子どもや家庭を取り巻く問題に直面するたびに、私は安全教育の意義を実感せずにはいられませんでした。

血縁や立場にしばられない、子どもたちが寄りかかれる「誰か」になれないかと考え、2017年には社会福祉士の資格を取得し、清永の運営する(株)ステップ総合研究所に研究員として勤務することとなりました。
現在は、NPO法人体験型安全教育支援機構の理事も務めています。

自分の力で危機を乗り越えられたプログラム受講の男の子

ーー印象に残っている事例はありますか?

八手さん:就学前に当機構のプログラムを受講した男の子が、入学後に連れ去られそうになったけれど、教室で習ったことを思い出して自分の力で逃げだすことができた、ということがありました。
腕をつかまれて車に連れ込まれそうになったそうです。

もちろん、誰にもそんな怖い目にはあってほしくないですが、それでもその男の子のお母さんは「子どもはとっても怖かったと思う。でも、それ以上に、危機的な状況の中で、自分でいろいろと判断し、乗り越えてきたことは、この子のこの先の人生でとても大きな自信になると思う」と言ってくださいました。

私たちは、単に被害防止だけを目指しているのではなく、このプログラムを通じて、彼のように自分で判断し行動するための「勇気が入るスイッチ」を入れやすくしたいとも考えています。
体験型安全教育として自分のからだでやってみることで、頭の中で「知っている」ことと、実際に「できる」のギャップを埋め、「勇気を出せば、自分もできるんだ」ということを徐々に覚えてもらうのです。
発達段階に沿って、子どもに様々な危機を乗り越えるための共通する力である「安全基礎体力」を身に着けてもらい、将来は安全な社会を形成できる大人に育てることが目標です。 

この男の子が無事に帰ってこられたことは本当に何よりですし、大変な状況の中で勇気を出し、自分で判断・行動し、危機を乗り越えるお手伝いができたと思うと、とてもうれしいです。

ーーたとえ危険な目に遭ったとしても、「乗り越えることができた」という実感が得られることが大事なんですね。

八手さん:私たちの活動に対し、「子どもに怖いことを教えるのはかわいそう」という意見もあります。しかし、現実には、いつでもどこでも大人が子どもに付いていられないなかで、子どもに近づこうとする「怖い人」は確実にいる、それに対して何もしなくていいのか、という思いがあります。
そして、怖い目にあった時、たとえ命が助かったとしても、危機体験は少なからず心に傷を負わせます。

だからこそ、怖い目に遭ったとしても、心身の被害を最小限にとどめ、いずれは「自分で立ち向かうことができた」経験として子どもの心に残ることが大事なんです。

ただし、「危ない」を学ぶ前提として、助けを求めれば守ってくれる人がいるという安心感や信頼感、大事に思われているという実感を子どもたちが持っていることがとても大事であり、そこを踏まえない安全教育は、ただ子どもを不安に陥れる危うさをはらむものだと思います。そのため、決して怖いことだけを学ぶようなものにはしていません。


リアルを追求した体験教室

指導士を増やしたい、体験型安全教育のできる施設を作りたい

ーー活動を続けてみて、やりがいを感じるのはどのようなときでしょうか?

八手さん:ありがたいことに、一度ご依頼をいただいた学校や自治体からは、次年度以降もご依頼をいただくことが多くあります。
すると、子どもたちの発達に合わせて自分を守るだけでなく、身近なお友だちや見ず知らずの人の安全も守る(それは加害者にならないことも含む)といった、応用的な内容にまで積み上げることができます。

繰り返し練習している子どもたちは、しっかりと力が定着し、応用力も発揮しやすいです。

事件などが起こると「子どもは何もできないから仕方ない」と言われますが、疑似体験であっても、危機に直面したときどうしたらよいか自分の頭で考え、時には人と協力し行動し乗り越える力は、繰り返し練習することで確実に育まれていくのだと実感しています。

また、私たちは子どもたちに安全教育をするだけでなく、地域の大人にも、その地域の子どもたちに体験型安全教育をおこなえるよう、指導士を養成しています。

本気で子どもの安全を考えている地域の先生方が、さまざまな工夫を凝らして子どもたちに接している姿は私たちが学ぶことも多く、とても励まされます。

ーー今後の展望を教えてください。

八手さん:近い将来の目標は、養成講座を実施して、さまざまな地域の大人がその地域の子どもに体験型安全教育を教えられる指導士を増やすことです。

また、体験型安全教育専門施設を作るという展望があります。
現在安全教室は出張授業中心のため、地域によって伺うことが難しい場合や、参加される方が経験できることや人数にどうしても制限が出てしまうことがあります。
しかし専門施設があれば、全国からそこに来ていただくことで、シチュエーションごとに違う安全教育をより幅広く、そして深く、教えることができます。

例えば、夜道の危なさをリアルに体験するためには「暗さ」が必要です。
専門施設があり、そこに照明の調節機能を持たせることができれば、夜道の暗さを体感してもらいつつ実践的な教育が可能になります。

出張型の体験授業以上に学ぶ内容の質を向上し、学び手の大人から子どもまで、発達段階やニーズに合わせたプログラムを、施設に来さえすれば受けることができれば、全国の方々に安全を届けることができると考えています。

ーー命を守るための教育、広めていきたいですね。今日はありがとうございました。