グリーフサポートとは? 子どもの喪失体験に寄り添う「グリーフサポートせたがや」インタビュー

あなたは「グリーフ」という言葉を知っていますか?
直訳すると「深い悲しみ・悲嘆」とされますが、大切な人やものをなくした時の喪失感のこととして表現されることもあります。

グリーフサポートせたがやでは、グリーフを抱えた子どもや大人に対し、サポートプログラムを提供する団体です。
世田谷太子堂にある「サポコハウス」を拠点に活動しています。

グリーフサポートとはいったいどんなことをするのか? グリーフサポートせたがやができたきっかけは?
メンバーの松本さんにお話を伺いました。


グリーフサポートせたがやのメンバーの方々

はじまりはグリーフを抱えている一人ひとりの出会いから

ーー活動を始めたきっかけを教えてください

松本さん:さまざまなグリーフを抱えている私たち一人ひとりがグリーフに関する学びや支援の場で出会ったことがきっかけです。2011年のことです。

その翌年、死別体験をもつ子どものグリーフサポートを米国オレゴン州で行なっている「ダギーセンター」(1982年設立)で研修を受けたメンバーが中心となって「グリーフサポートせたがや」が生まれました。

「自分たちの地域にもこういう場がほしいね」と夢を語り合っていくなかで仲間が増えていき、2014年、世田谷区の空き家モデル事業を通してスペースを借りることができ、「サポコハウス」(世田谷区太子堂)を運営しています。

2014年の夏に死別体験をもつ子どものグリーフサポートプログラムを始めました。
今ではおとなを対象としたプログラム、パートナーを亡くした方のピアサポートプログラム、また、対面相談や電話相談、グリーフをテーマにした連続講座、そして、どなたにでもお越しいただけるサポコミュカフェを定期的に行なっています。


グリーフサポートせたがやの活動スペース、「サポコハウス」(世田谷太子堂)

喪失体験を抱える子どもたちの「ピア」と「シェア」の場

ーーグリーフとは? グリーフサポートせたがやさんでのグリーフサポートとは、どのようなものなのでしょうか?

松本さん:身近な人が亡くなった、あるいは自分が大切に思っているものをなくしたという極めて個人的な喪失体験は、日常生活のなかでは話しづらいことなのではないでしょうか。

私たちおとなも普段の生活のなかで話題にすることはあまりありません。
もし親と死別した子どもが亡くなった親のことを話したいと感じても、周囲のおとなが口を閉ざしていたり、話を聞いて動揺したり、どう反応していいのかわからなくなったりする様子を見ると、その子は話すことを躊躇してしまうかもしれません。

また、グリーフのあらわれ方は人それぞれ異なります。
いろいろな考えが浮かんできたり、身体が思うように動かなかったりすることもあります。
悲しみや怒り、寂しさや罪悪感、不安や恐怖、あるいは安堵感などいろいろな気持ちを感じることもあるかもしれません。
「これから自分はどうやって生きていったらいいんだろう?」「なぜこんなことが起きたんだろう?」といったことが頭に浮かぶこともあります。
ときには、ドキドキが止まらなくなったり、眠れなくなったり寝すぎてしまったり、食欲がなくなったり食べ過ぎてしまったり、友だちと遊べなくなったり、学校に行けなくなったりと、それまでできていたことが一時的にできなくなることもあります。

このように、グリーフを抱えるといろいろな考えや気持ちや身体の不調などがおきることがあります。

「サポコハウス」では、どんな気持ちも考えもありのまま受けとめます。
そしてそのために必要なのは、安心・安全な「場」や「人」です。

「サポコハウス」は「ピア」と「シェア」の場と言えるかもしれません。
「ピア」とは「仲間」、「シェア」とは「共有する」ということです。
自分と同じように身近な人を亡くした「仲間」と、遊びなどを通して体験や時間を「共有」しながら、自分のグリーフを表現し、自分の体験や気持ちに安心して触れられる場です。

そのような安心、安全な環境をつくることが「サポコハウス」のサポートプログラムで最も大切なことの一つです。


子どもは遊びを通して自分のグリーフを表現する

ーー具体的にはどのようなことをするのでしょうか?

松本さん:最初に「始まりの輪」、最後に「終わりの輪」があります。

「始まりの輪」では「安心・安全のためのルール」をみんなで確認し、自分の名前や誰を亡くしたのかを話します。
「ルール」のなかには、「話したくないときはパスできる」というルールがあるので、始まりの輪で話したくないときは「パス」と教えてくれる子どももいます。
「ナイショはナイショ」というルールもあります。そこで見たり聞いたりしたことは外では話さないということをみんなで確認します。

そのあとは自由に過ごします。本を読んだり、おもちゃで遊んだり、絵を描いたり、お話をしたり、自分のしたいことを自分で選んで過ごします。
壁や床がクッション材で覆われた「火山の部屋」には、サンドバッグや大きなぬいぐるみがいっぱいあります。そこでは「火山」のように噴火してもよく、ぬいぐるみを投げたりサンドバッグをパンチしたりできます。

身近な人が死ぬということは、天と地がひっくり返って自分が知っている世界が丸ごと変わってしまうような経験です。
言い換えれば、世の中の出来事だけでなく自分自身の感情すら自分でコントロールできなくなり、コントロール感を失ってしまう経験です。
「サポコハウス」で過ごす時間は、自分がしたいことやしたくないことなど、自分の気持ちに気づいて、さまざまな選択肢から一つひとつ選ぶということを積み重ねていきながらコントロール感を少しずつ取り戻していくプロセスと言ってもいいかもしれません。

――そんな中で、おとなはファシリテータとしてどう対応してするのでしょうか?

松本さん:どの部屋で何をして過ごすか、何もしないで寝転がっていたいか、一つひとつ小さなことかもしれないけれど子どもたちが自分で決めることを私たちおとなはできるだけ邪魔をしないように、安心・安全に過ごせる場を支えます。

子どもたちの言動を、分析も解釈も評価もしません
ポジティブな評価、つまり褒めることもしません。褒められるようなことをしなくちゃ、というプレッシャーになると、子どもたちの遊びが子どもたちのやりたいことから離れてしまうかもしれないからです。
子どもたちの遊びの主導権は常に子どもたちにあります。遊びの誘導もしませんし、盛り上げることもしません。ただ、その一瞬一瞬の時間をともに過ごします。

グリーフサポートの「サポート」とは、何かをする「Doing」のではなく、どのようにその場にいるか「Being」が大切です。

子どもプログラムの参加者に「今日はどうだった?」と聞いたことがあります。
「楽しかった」という返事が返ってきました。「どういうところが楽しかった?」と尋ねると、「自由にできた」と教えてくれました。「ありのままの自分でいられる自由」をサポートすることが大切ということを教えてもらいました。

グリーフサポートせたがやには子どもだけではなくおとな向けのプログラムもあります。子どもプログラムを開催するときは別室で保護者のプログラムもあります。


子どもたちが遊びの主人公

ーー皆さんが研修を受けたダギーセンターはどんな場所だったのでしょうか?

松本さん:ダギーセンターの名前の由来になっているのはダギーくんという男の子です。

脳腫瘍を患っていたダギーくんは、同じ小児病棟に入院している子どもたちと、命について、死について語り合っていました。その様子を見ていた一人の看護師が、「子どもは子どもどうしでサポートし合える。おとなにできることは、子どもにとって安心安全な場所を作ること」と感じたそうです。

その経験から、身近な人を亡くした子どもたちが安心して過ごせる場づくりを始めました。それが、オレゴン州にあるダギーセンターです。


ダギーセンター(オレゴン州ポートランド)に飾ってあるダギーくんの写真

どんな状況においても、みんな「ちから」をもっている

ーーこれまで活動をしてみて、どんなことを感じていますか?

松本さん:「どんな状況においても誰もがちからをもっている」ということを感じています。

自分と向き合う力は一人ひとりのなかにあって、向き合うタイミングも人それぞれであるということを実感しています。
グリーフを抱えた方が、グリーフサポートの情報につながって、「サポコハウス」に連絡をとって、実際に足を運ばれたということが、ただもうそれだけでその人の「ちから」です。

そしてこの「ちから」はグリーフサポートプログラムに携わっているわたしたちのなかにもあること、それを養っていけることを感じています。
先ほど触れましたが、なにかを「する=Doing」ような「ちから」ではなく、むしろ、自分の今の気持ちや体調に気づく「ちから」、そして必要であればちゃんと休んでセルフケアをするという選択ができる「ちから」です。
がんばりすぎない「ちから」を養う大切さ、「わたしも大事 あなたも大事」にできる「ちから」の大切さを感じています。

ダギーセンターのグリーフサポートのアプローチのすばらしさの一つは、ファシリテータのセルフケアがプログラムのなかに織り込まれていることです。
1時間半のグリーフサポートプログラムの前後に1時間ずつ時間をとってファシリテータだけで「プレミーティング」「ポストミーティング」をします。ファシリテータが自分の気持ちや体調に気づける時間です。
自分のことをほかのファシリテータに伝えておくと全体の安心・安全な感覚を共有できます。
小さなことでもいいんです。例えば「ちょっと腰が痛いから今日は激しい動きができない」ということを共有できていればファシリテータ同士で支え合うことができます。

またファシリテータも一人ひとりが自分のグリーフを抱えています。
プログラムで参加者のグリーフに触れると、自分のなかのグリーフも影響を受けます。自分のなかで揺れたことを一人で抱えるのではなく、ポストミーティングでシェアすることでサポコハウスに置いて帰ることができます。
「プレ・ポストミーティング」はファシリテータの「ピア」と「シェア」の場、サポートプログラムと言えるかもしれません。

ーー最後にグリーフサポートせたがやさんの「これから」について教えてください。

松本さんグリーフサポートせたがやではグリーフを「死別」だけでなく、さまざまな「喪失」によっておきるものととらえています。

家族と離れて暮らしたり、暴力にさらされたりすると安心感を失います。
自然災害などがあると家やご近所づきあい、仕事を失います。
失業や就職難になると希望をもてなくなります。
貧困におちいると人間らしい生活が送れなくなります。
いじめを受けたり、差別されたりすると自尊感情やアイデンティティが持てなくなります。
年齢やジェンダー、人種や民族、宗教、障害、セクシュアリティによるものなど、さまざまな差別があります。非婚や不妊などへの社会の偏見があると自己肯定感や尊厳が傷つきます。

いろいろなグリーフを支え合えるグループ、例えば、親と離別した子どものグループや終末期にあるご家族をもつ子どものグループなども開催できるようになるといいですね。

また、現在はボランティアスタッフのみで運営しているのですが、将来的には有給のスタッフが常駐できて、さらに活動の幅を広げていけるといいなと思います。

そのためには人的・資金的な課題がやはり大きいです。
現在は助成金や寄付金、そして賛助会員の会費で支えられています。

例えば、古本を寄付することで市民活動を支えるという「ありがとうブック」さんという取り組みは、どなたでも自分のできる範囲で無理なく参加しやすい方法でとてもいいですね。
私たちもとても助けられています。

「グリーフサポート」は「わたしも大事 あなたも大事」というあり方を大切にしています。
誰もが大切にされる文化が広がっていくためにも、たくさんの方と一緒にグリーフサポートの輪を広げていきたいと思っています。


「わたしも大事 あなたも大事」にできる文化を広げていきたい