性暴力撲滅を明るく「啓発」する……!NPO法人しあわせなみだ代表中野さんにインタビュー

NPOの活動を紹介するwithNPO、さまざまな団体で活動する人にインタビューし「生の声」を聞かせていただきます。
今回はNPO法人しあわせなみだの代表中野宏美さん。
性暴力撲滅に向け啓発活動を行っています。
活動のきっかけや目的・内容、ちょっと踏み込んで資金の話や中野さんのNPO活動とお仕事の関係などについて伺いました。


中野宏美さん

NPO法人しあわせなみだ 代表
1977年東京生まれ。東洋大学大学院社会学研究科修了。社会福祉士。精神保健福祉士。
友人がDVに遭ったことをきっかけに、できることから始めようと決意。「2047年までに性暴力をゼロにする」ことを目指して、2009年「しあわせなみだ」を立ち上げる。2011年にNPO法人化。2011年女性デープレゼンコンテスト「女性デー特別賞」受賞。2013年度東京都「性と自殺念慮調査委員会」委員。2018年AERA「社会起業家54人」選出。

はじまりはブログ……DVの実態を伝えたくて

ーー活動のきっかけはなんだったのでしょうか?

中野さん:友人がDVにあっていたことがきっかけでした。
同じ職場の同期で仲もよかったのに、私は彼女が暴力にあっていたことに気付けず、何もできませんでした。

もう一つ私の原体験として挙げられるのが、学生時代福祉を専攻している中で、実習で「暴力等により夫と暮らせない母子」を目の当たりにしたことです。
パートナーから暴力を受けた女性とその子どもが暮らす母子生活支援施設、一番安全なはずの家族から暴力に遭うという事実がショックでした。さらに、「暴力にあった側が隠れて暮らしている、それはおかしい」と強く思いました。

私が見た現実や感じたことを伝えたくて、最初はブログを書き始めたんです。
すると、仲間が増えて、施設で講座などの事業を行うことになり2011年に法人化することになりました。

当事者支援ではなく、あくまでも「啓発」を行う。その意味とは?

ーー現在、活動の中心にしているのはどんなことでしょうか?

中野さん:しあわせなみだの主な活動は「啓発」です。

性暴力にまつわる活動というと、被害に遭った方々をケアするシェルター運営などの「当事者支援」を思いうかべる方も多いかも知れませんが、他の団体ができないことをしたい、そして暴力がなくなればケアすることもなくなる、という考えから性暴力撲滅の啓発を行っています。
「啓発」活動を行っている団体は実はそれほど多くないのです。
理由の1つは啓発には確立されたノウハウがあるわけではないから。
また、具体的に支援を行うわけではないため、公的資金の獲得が難しく、継続的な活動がしづらいことが挙げられます。
性暴力被害者を直接支援している方だと、被害者を守るためにメディアへの顔出しができないという特有の理由もあります。

署名を通じ社会を動かした「ビデオ原本没収」、刑法性犯罪見直しにも参加


弁護士懲戒請求署名を日本弁護士連合会に提出。
 ーーこれまでの活動で、大きなものにはどんなものが挙げられますか?

中野さん:性犯罪裁判における被疑者側の弁護士が、被害者側弁護士に対し「示談に応じれば性犯罪時のビデオを処分する」と求めた事件が明らかになったことがありました。
被害者は「断れば自分の動画が流出するかも」と大変な恐怖を感じていました。
2015年に、私達は示談を求めた弁護士の懲戒などを求める署名をインターネット上で実施し、19,806人の賛同者が集まりました。

結果的に懲戒は実現しませんでしたが、最高裁が事件の証拠であるビデオ原本の没収を可能とする画期的判断を下しました。
実はこれは私達の想定にはなかったもので、「こういうやり方もあるんだ」とびっくりしたというのが正直なところです。
市民の声を届けることで、社会が動くことを実感できました。

被疑者側の弁護士は、被疑者を守ることが自身の仕事です。しかし、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とするはずの弁護士が被害者を恐怖に陥れるようなことを許してよいのでしょうか。
この署名は性犯罪裁判に限った話ではなく、「私たち市民は加害者側の弁護士による被害者の人権侵害を許さない」という意思を示すものであることも一つのポイントでした。


刑法性犯罪見直しを求める署名を法務大臣に提出。

中野さん:もうひとつ大きな活動を挙げると、2016~17年に刑法性犯罪見直しを後押しするプロジェクトに関わったことがあります。しあわせなみだとしては、国会議員や関係省庁への働きかけ、世論喚起などを行いました。
なんと、刑法性犯罪の抜本的な見直しは制定後110年のなかで初めてのこと。当時の法務大臣松島みどり氏が「強姦罪の法定刑が強盗罪より軽い」ことに異を唱え改正すべきとはじまったプロジェクトでした。
大幅な改正が実現しましたが、やはり110年前に制定されたものを現在の実情に合わせていちどに変更するというのはなかなか労力の要ることで、間に合わない部分もありました。そのため、「施行後3年後を目途として、必要があると認めるときにに所要の措置を講ずる」と今後につながる文言を盛り込むことができました。

障がい児者への性暴力が認識される社会を目指す


障がい児者への性暴力調査報告書。

ーー3年後というと2020年、来年ですね。見直す、とのことですが、今どのようなことを盛り込んでいこうとお考えですか?

中野さん:現在しあわせなみだでは「障がい児者への性暴力」について取り組んでいます。
障がい児者への性暴力と聞くとたいていの方は驚かれるかも知れません。
しかし、しあわせなみだの活動を通じて性暴力被害を経験した方とお会いする中で、私たちは「性暴力被害者の方の中で障がいのある方の割合が明らかに高い」ということに気付いたのです。

実は海外の調査では、障がい児者は健常者の約3倍、性暴力被害を経験するリスクが高いことが明らかにされています。
性暴力の問題を扱う側も、まず第一に被害者となりやすいのは障がい児者で、次いで女性や子どもが挙げられる、といった認識を持っているほどです。
対して日本では、障がい児者への性暴力については公的な調査や実態把握はこれからであり、法制度整備も進んでいません。

私たちが調査を進めると、障がい児者への性暴力の背景には、障がいならではの「特性」に加え、障がいならではの「育ち」があることが分かりました。
また、しあわせなみだのメンバーには社会福祉に従事する者が多く、「障がい児者への(性暴力を含めた)暴力の構造」について現場の人間として感覚的に理解できる部分がありました。

しあわせなみだは「障がいのある方の中に、性暴力被害を経験している方が少なくない」事実を日本中に届け、法制度の整備の実現に向け取り組んでいきます。

私たちもこの取り組みを進める中で知ったのですが、海外では障害者が性犯罪被害者の場合、加害者の量刑を重くするということもあるようです。
障がい児者の人権を守るための取り組みであるといえるでしょう。

仕事を持ちつつNPO法人としての活動を行う日々

ーーちょっと踏み込んだことを聞いてしまうのですが、NPOの活動を継続的に行っていくのは資金面でなかなか難しいということが話題になることもありますよね。
その辺についてお伺いしたいのですが、しあわせなみださんはどのようにやりくりなさっているのでしょうか?

中野さん:先ほどお伝えしたように、しあわせなみだは啓発を目的とした団体のため公的な機関からお金をいただくことが難しいです。そのため、民間の助成金に申請し審査を受け、そのうえで活動資金としていただいています
もちろん、活動に賛同してくださる方の寄付もありがたいものです。
そのほか、「ありがとうブック」という古本等の寄附を通じた一般の方が気軽に支援できる仕組みもあります。
理由は色々あれど、ご自身の大事にしていた本等を手放すことで社会貢献につながる、どなたにでもできる「初めてのボランティア」として良い仕組みだと思います。

ーーぶしつけな質問かも知れませんが……中野さん自身はしあわせなみだの活動で食べているのですか?

中野さん:よく聞かれる質問ですね、この人どうやって食べてんだろうって思われてることが多いです。
現在私は、公的機関で福祉関係の職員として非常勤で働いています。
ちょうど今は、仕事としあわせなみだの活動とで、重なる部分が多いですね。
定時勤務なので、平日夜も打合せに充てることができます。
社会起業したい方に向けてお話することがあるのですが、私はある程度生活を維持できる収入の得られる仕事を持ちながら活動を立ち上げることを、1つの選択肢としておすすめしていますよ。

明るく楽しく、「人が寄ってくる活動」を

ーー今回のインタビューで感じたのですが、しあわせなみださんはヘビーな問題を扱っているとは言え、中野さん自身は明るくてとってもお話しやすかったです。

中野さん:そうですね、明るく楽しくしないと人は寄ってこないんです
今まで、性被害の活動っていかに暗くてしんどいかが強調された重苦しいものだったのではないかと思うんです。もちろん性被害は、心身に深いダメージを与え、その後の人生に大きな影響を与えます。落ち込んで誰にも会わず、1人で泣きくれる日かもしれません。でも、すべての行動は、自分が今より少しでも良い人生を歩んでいくことにつながっています。

平和で明るい希望ある未来へ向かうためには、活動姿勢でそれを見せていけるようにこころがけています。